Tere! 皆さまこんにちは。
先日、突風降雪注意報が発動されているとは知らずに学食堂から寮まで外を歩いていました。
街灯に照らされる時速50㎞超えの風と雪を見ていたら、なんだか魔法が起きそうな感覚を覚えました。
まだまだ寒い日が続くアメリカ中西部に住んでいます、ライターのNamiです。
さて、このように寒い時期が続いていますが、そろそろキリスト教文化のある国々ではおなじみの「ざんげの火曜日」が訪れます。
その名前とは裏腹に、実はわいわい楽しく過ごす伝統が多いざんげの火曜日。
エストニアにおいてのその日の主役は、「Vastlakukkel(ヴァストラクッケル)」!
ヴァストラクッケルは、スウェーデンではSemla(セムラ)とよばれており、日本でもこの呼び名が定着しております。
今回は【北欧では、みんな大好き!ざんげの火曜日の主役のセムラ】についてご紹介いたします。
一度食べたらハマってしまうセムラとは
セムラとは、ざんげの火曜日に北欧諸国で食べられる菓子パンのことを指します。
ホイップクリームやアーモンドペーストの乗った丸いフォルムの可愛らしいセムラは、見た目とは裏腹に少し控えめの甘さでとてもおいしい事で大人気です。
初期の頃のセムラは、ただのシンプルな丸パンで、よく温かいミルクと一緒に食べられていたそう。
それがいつしか、今のようにおしゃれなビジュアルと、甘い風味をもつものへと変化していったのです。
エストニアではVastlakukkel
ちなみに、日本でもよく呼ばれる「Semla(セムラ)」という名前は、スウェーデン語。
北欧諸国では国によって違った呼び方をされています。
フィンランド語では laskiaispulla(ラスキアイスプラ)、ラトビア語では vēja kūkas(ヴェヤクーカス)、デンマーク語とノルウェー語では fastelavnsbolle(ファステラーヴンスボッレ)。
そしてエストニア語の名前は、Vastlakukkel(ヴァストラクッケル)です。
今の時期、エストニアを歩けばどこもかしこもこのセムラを発見する事ができます。
ちなみに火曜日当日が過ぎ、翌日になれば、パタっとお店に並ばなくなってしまいます。
この時期にエストニアを訪れることがあれば、「Vastlakukkel」の看板を見つけて、早めにゲットしておくことがおすすめです。
「ざんげの火曜日」の伝統
北欧では伝統的にセムラが食べられる「ざんげの火曜日」とは、一体どのような特別な意味を持つのでしょうか?
ざんげの火曜日とは、キリスト教文化の根づいた様々な国に共通する祝日です。
フランスではMardi Gras(マルディグラ), イギリスやアイルランドでは Pancake Tuesday(パンケーキ・チューズデイ)、またはShrove Tuesday(シュローヴ・チューズデイ)として知られており、私が住んでいるアメリカではよく Marti Gras や Fat Tuesday(ファット・チューズデイ)と呼ばれているのを耳にします。
そして、一年のうちのどの火曜日のことなの?というと、キリスト教の四旬節という期間が始まる前日の火曜日を指すのです。
四旬節(別名:レント)とは、キリストの復活を記念するイースターの前の準備期間に当たります。
およそ40日間続くこの時期、は “断食” の期間とされていますが、実際にはお腹いっぱいに食事をとらないこと、また豪勢な食事を控えたり、特にお菓子やデザート等を食べないとする事が多いです。
だからこそ、そのように断食する前にはたくさんのごちそうを食べよう!と、美味しいものをたくさん食べたり、カーニバルなどを催す習慣が存在します。
そのようなイベントを行う、文化的重要な意味を持つ日が、「ざんげの火曜日」なのです。
ちなみに国によって、ざんげの火曜日に食べる習慣のあるものは様々。
エストニアを含む北欧諸国はセムラを食べますが、フランスやイギリスではパンケーキがメイン。
アメリカでは地域によって様々ですが、ニューオーリンズ発祥の甘くてカラフルなキング・ケーキが有名です。
セムラ以外の食べ物にまつわるエストニアの文化
キリスト教の祝日とされているざんげの火曜日。
しかしエストニアやフィンランドでは、この祝日にまつわる伝統文化のほとんどがキリスト教以前の文化より大いに影響を受けています。
キリスト教の布教が他のヨーロッパ諸国より遅かったエストニアでは、ざんげの火曜日はどちらかと言えば、春の訪れを待ち遠しく、楽しみに思う伝統行事としての要素がとても強く残っているのです。
※ちなみにエストニアは、現地のクリスマス文化もキリスト教以前のものが大いに影響していると言われています。
例えば、セムラ以外にも食べ物にまつわる文化があります。
エストニアでは昔から豚のと殺が12月に行われてクリスマスのごちそうとして食べられてきました。
そのため2月末・3月頭にはその豚足しか残っていません。
だからこそざんげの火曜日の時期には、豚足と豆を煮詰めたスープを振舞う伝統があり、それは今日でも人気メニューなのだそうです。
しかも、その豚足を食べたあとの指と顔まわりを拭いてはいけないという古い言い伝えもあるのだとか。
これは皮膚についた油が、鋭い刃物などから皮膚を守ってくれるからなのだそうです。
豚は食用以外にも、おもちゃづくりに利用されました。
その骨からは独楽が作られ、そのための大会も催されたのだそうです。
日本では昔から、食材をまんべんなくそれぞれの部位に適した方法で利用する「始末料理」が大切にされてきていましたが、動物を無駄なく最大限に活用する点はこのようなエストニアの伝統文化と似ていますね。
日本の江戸時代に採られていたクジラの食べられないひげの部分が、子供たちのおもちゃの部品として利用されていたことと似ています。
そしてこのような独楽大会以外にも、春や夏の訪れを願った楽しいアクティビティはたくさん。
例えば、今ではほとんど生産されていませんが、エストニアでは昔、リネンの原材料である※亜麻仁(アマニ)がたくさん育てられていました。
※亜麻仁(アマニ) 英語ではフラックスシード(flaxseed)。
人類が初めて栽培したといわれる植物で、茎からはリネンの布地が作られます。
「アマニが長く元気に成長しますように」
そのような願掛けのために行われてきたそりすべりの伝統は、今でも残っています。
昔は、すべった距離が長ければ長いほど次の夏に生えるアマニの茎も長く成長すると考えられていたのです。
ちなみに、女性はアマニの成長を願って瓶から直接お酒を飲むという風習もあったのだとか。
さすが、エストニアの方々はお酒に強い!と思ったのは、私だけではないはずです。
この他にも、
・火をつけてはいけない
・羊毛を紡いではいけない
・髪は切り、梳かすのが良い
といった風習が、ざんげの火曜日にはあったのだそうです。とても興味深いですね。
キリスト教の影響を受けながらも、それ以前の伝統文化も色濃く反映されているエストニア。
ぜひ皆さまも一度、ざんげの火曜日の時期に訪れた際にはカフェでセムラを頬張りつつ、このようなエストニアの歴史や文化に思いを馳せてみてくださいね。
今回は、ライターのNami がお届けしました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。